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【連載コラム第2回】~野木亜紀子論「逃げるは恥だが役に立つ」編~

連作コラム「野木亜紀子論」今回はその第二回です。

重版出来!【TBSオンデマンド】【連載コラム第1回】~野木亜紀子論「重版出来!」編~

今回のテーマとなるのは、言わずと知れた超話題作。野木亜紀子の名を全国に知らしめ、主題歌「恋」を含め、大ブームを巻き起こした作品。「逃げるは恥だが役に立つ」をテーマに、野木脚本の面白さを探って行きたいと思います。

野木亜紀子第37回向田邦子賞贈賞式(C)東京ニュース通信社

”むずキュン”必死!?「逃げ恥」あらすじをご紹介

まずは今回のテーマとなる「逃げるは恥だが役に立つ」について、簡単にご紹介致します。

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

”契約結婚”?、”プロの独身”?、異色の社会派ラブコメディー!

高学歴ながら不況の煽りを受け就活戦線に敗北した主人公、森山みくり。派遣社員として働き、何とか日々を食いつないでいた彼女に待っていたのは派遣切りという厳しい現実だった。

父の紹介で家事代行サービスという新たな職にはありついたみくりだったが、雇用主、津崎平匡の偏屈かつ繊細微妙な性格に戸惑うばかり。

更には両親の突然の隠居発言まで飛び出す始末。そんな中、やぶれかぶれで打ち出した現状維持の為の秘策、”契約結婚”が平匡の利害に一致し、二人は偽りの結婚をすることに。

二人の突然のゴールインを怪しむ周囲の視線を誤魔化すために、あの手この手で新婚感をアピールする二人であったが、みくりは津崎が時折、垣間見せる心の壁に対して対処

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

心理学の知識を駆使しつつ、津崎の心理を分析するみくり。だが、それによってみくり自身も過去の恋愛のトラウマを想起してしまうのだった・・・。

毎話毎話、二人の距離が縮まっては離れ、離れては縮まってを繰り返す展開に、むずむずするけどキュンとする。「むずキュン」なんて造語も生まれた話題作。主演の新垣結衣のキュートな演技、共演の星野源のめんどくさ可愛い奥手男子っぷりに注目です!!

家事は立派な労働です!男女を縛る呪いに、二人(夫婦)で立ち向かえ!

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

本作は「社会派ラブコメディー」と銘打たれているだけあって、作品内で度々、我々が住む現代日本に未だ根強く残っている女性軽視やジェンダーロール(性別に対する固定的な価値観)をストーリーの槍玉に挙げ、各キャラがその事柄についてそれぞれの価値観で語っているように思えます。

代表例としては、「家事が仕事に比べて劣った扱いを受けているのは何故か?」という事や、「女性が理知的に論理立てて、男性に意見をする事を煙たがられるのは何故か?」という事などが挙げられます。

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

主人公であるみくりは、大学院で学んだ心理学を駆使して自身や周囲を客観的に分析し、論理立てて物事を捉えるキャラクターですが、彼女は自分のそうした理知的な側面を男性から「小賢しい」と言われ否定された過去を持っています。

それ故に、思考を重ねても言動に反映出来なかったり、他人に意見をした事を自ら否定的に捉えてしまったりする傾向があるのです。

他人に必要とされる自分でありたいと思う反面、本当の自分は「小賢しい」ので、他人から敬遠されてしまうと恐れているキャラクターなのですね。

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

それ以外にも、年齢や性別、セクシャリティに対する社会の固定的な意識が、登場人物一人一人に呪いのようにのし掛かり、彼らに生き辛さを与えている様が描かれます。

本作はそうした問題を真正面から描くと共に、「逃げるは恥だが役に立つ。だからそんなものからは逃げてしまいなさい」と、優しいメッセージを投げ掛けてくれるのです。

「逃げ恥」に見る野木脚本の真髄!「女性を解き放つストーリーテリング」

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

前回のコラムでは、漫画雑誌の新人編集者を主人公としたドラマ「重版出来!」をテーマに野木脚本の面白さについて語って行きましたが、本作「逃げるは恥だが役に立つ」には、「重版出来!」ではあまり見られなかった野木脚本の隠された特徴が細部に現れていますので、今回はその特徴について語って行きたいと思います。

重版出来!【TBSオンデマンド】【連載コラム第1回】~野木亜紀子論「重版出来!」編~

この国で女性として生きるという事。その歯痒さを描く名手。

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

ジェンダーギャップ、という言葉を聞いた事があるでしょうか?

解説いたしますと、ジェンダーギャップとは性差。性別によってギャップがある事を示す言葉であり、世界各国における性別毎の社会的立ち位置、扱いの差、生きやすさを表したランキングでは、日本はなんと110位。端的に言うと、女性がとても生きづらい国であるという風に示されているのです。

近年では男尊女卑という言葉や、そうした価値観を目の当たりにする事は以前ほど多くはありませんが、それでも男女平等という理想からは遠く離れた社会になってしまっているのが現状です。

近年では、医療系大学の入学試験で不当な性差別が行われていた事が明らかになったり、各界で女性へのセクハラ行為が発覚したりなど、女性を取りまく環境は不当に厳しくなっているのです。

脚本家、野木亜紀子は女流作家として、この国で女性として生きるという事の現実をこれまでも度々、自身の作品内で描いて来ました。

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

「空飛ぶ広報室」では自衛官として生きていく為に女性を捨てなければならなかった人物が描かれ、「重版出来!」でも、主人公である黒沢心に直接届く事はありませんが、劇中で「女は楽でいいよな」等の言葉が投げかけられる様子が描かれています。

「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」や「アンナチュラル」、「獣になれない私たち」でも、登場人物が女性であるという理由で理不尽な扱いを受ける様が必ず描かれているのです。

逃げるは恥だが役に立つ 1巻逃げるは恥だが役に立つ 1巻

勿論、そうした共通点の背景には、野木亜紀子が女性であるからというのも大きな理由の一つとして挙げられると思いますが、彼女の作り出してきたドラマで描かれる”女性を抑圧する者達”は決して単なる物語的快楽の為の道具ではありません。

どのキャラクターの言動にも一定のリアリティと実在感があるからこそ、そうした現実の中で苦汁を嘗めつつも歯を喰いしばって戦い続ける登場人物達に私達、視聴者は深い共感を覚えるのです。

仕事が出来、人格に優れているのにも関わらず、女性であるという事だけが足枷のように彼女達の歩みを遮る。けれど、諦めずに立ち上がり、涙を拭いて現実に立ち向かっていく”強さ”が野木脚本の登場人物には宿っているのです。決められた役割や押し付けられたルールを壊して自由になろうとする人々のもがきを優しい目線で描き、そこに僅かな希望の光を垣間見せる。

強い誰かに頼るのでもなく、優しい誰かに甘えるのでもなく、互いに支えあって、高め合う事で苦難を乗り越えていく”多様性”の作家。それこそが現代日本において、野木脚本が多くの人々の心を揺さぶり続ける理由なのかも知れません。

まとめ~野木亜紀子論「逃げるは恥だが役に立つ」編~

逃げるは恥だが役に立つ(C)TBS/(C)海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)

本作「逃げるは恥だが役に立つ」の中でも、主人公であるみくりの視点を通して、この社会に未だ残る”呪い”の数々が描かれているわけですが、登場人物達は如何にしてそれを乗り越えていくのか、まだ見ていない貴方も、もう何周もしたという貴方も是非、何度でも確かめて、この作品を通して勇気と知恵を貰って頂けたら、ファンとしてこれ以上の幸せはありません。

今回ご紹介した作品「逃げるは恥だが役に立つ」は動画配信サービス「Paravi」にて配信中!

また本作は年末や連休のタイミングなどで一挙放送される事も多い作品ですので、視聴のチャンスがやってきた際には、是非とも見てください!

(2019年6月現在の情報です。詳しい情報はParavi公式サイトでご確認ください。)