同期のサクラ!見逃し配信はHulu

【連載コラム第1回】~野木亜紀子論「重版出来!」編~

本記事は今もっとも注目すべき脚本家、野木亜紀子の作品を振り返ると共に、彼女の描くドラマの面白さ、その秘密を解き明かして行く連載コラムです。こちらの連載は全4回です。

逃げるは恥だが役に立つ【連載コラム第2回】~野木亜紀子論「逃げるは恥だが役に立つ」編~ アンナチュラル ドラマ【連作コラム第3回】~野木亜紀子論「アンナチュラル」編~ 獣になれない私たち【連作コラム第4回】~野木亜紀子論「獣になれない私たち」編~

今回はTBSドラマ「重版出来!」をテーマにお送りいたします。

重版出来!【TBSオンデマンド】©TBS©松田奈緒子/小学館

重版出来!をAmazonプライム・ビデオで観る

重版出来!をHuluで観る

柔道バカが一躍転身、漫画業界へ殴り込み!?「重版出来!」のあらすじをご紹介!

野木脚本の面白さ、その真髄を語る前に、まずは今回のテーマとなるドラマ「重版出来!」についてご紹介致します。

漫画業界の裏側を描く、お仕事系人間ドラマ!

重版出来!(C)TBS(C)松田奈緒子/小学館

本作は「月刊!スピリッツ」にて連載中の同名漫画を原作とするドラマ。日本人であれば誰もが親しみのある我が国の文化、漫画。その漫画が作られ、読者に届けられるまでの悲喜交々を描いた人間ドラマである本作ですが、主人公は漫画家ではありません。では、どの立場から漫画に携わる人物が主人公なのか。

それは影の仕事人、編集者です。

漫画雑誌に掲載される作品の裏には、書き手となる漫画家と、その漫画家の作品作りをサポートし、誌面に掲載されるまでを手掛ける編集者が存在します。

重版出来!(C)TBS(C)松田奈緒子/小学館

彼らは二人で一組。二人三脚で我々に漫画を届けるべく日夜、奮闘しています。漫画家は面白い漫画を描く為に心血を注ぎ、編集者は会社の利益や各雑誌毎にある掲載作品のテイストという現実的な制約の中で、如何に担当する作家の漫画を読者に届けて行くかを模索しているのです。

そんな彼らのひたむきな努力が実る時、そこには必ず、”ある言葉”が発せられる。その言葉こそが、本作のタイトルでもあります、「重版出来」なのです。

重版出来とは、書籍が発売され、最初に刷られた部数(初版部数)よりも多くの購買が見込めた際に、追加の印刷を掛ける事をさします。つまりは、予想よりいっぱい売れてるから、もっと刷ろう!となる事です。

新人編集者、黒沢心。気合いと根性の奮闘記!

重版出来!(C)TBS(C)松田奈緒子/小学館

人生の全てを柔道に捧げ、金メダルだけを目指して邁進してきた主人公、黒沢心(黒木華)。だがしかし、彼女の柔道人生はケガによって突如として終わりを迎える。目標への道を断たれた彼女であったが、そんな彼女には柔道の他にも愛するものがあった。漫画である。

自分を支え、時に導いてくれた漫画を、自分も世に送り出してみたい。その一心で大手出版社「興都館」の入社試験に挑むが、その最終面接の場で、突如現れた社長に背負い投げを決めてしまう。

よもや、ここまで。そう思われた心の就職活動であったが、何故か「興都館」への内定が決まる。

勝負師としての才覚を見込まれ、「週刊バイブス」の編集部に配属された心の編集者人生が幕を開けるのであった・・・。

重版出来!(C)TBS(C)松田奈緒子/小学館

このドラマは、入社一年目の新人編集者が週刊コミックの編集者として挫折と成功を繰り返し、人に夢を与える仕事とは何かを学んで行くお仕事系人間ドラマなのです。

そこには作り手としての漫画家の苦悩、漫画家を目指す若人の夢と挫折、出版業界の厳しい現実などが待ち受ける訳ですが、それ以外にも、意外と知らない漫画制作のアレコレや、雑誌同士の売り上げ競争など、漫画を読む人でも読まない人でも、どんな人の心にも刺さる普遍的な努力と葛藤の物語がそこに描かれているのです。

重版出来!をAmazonプライム・ビデオで観る

重版出来!をHuluで観る

漫画は一人では作れない。作品を作り、読者に届けるとは何か。

重版出来!(C)TBS(C)松田奈緒子/小学館

漫画を描くという行為は紙とペンさえあれば、漫画家が一人で出来ますが、読者に届けるにはより多くの人間と時間が必要となります。ましてや、より面白い漫画を、より多くの読者に、より読みやすく届けるのはたった一人の書き手では到底不可能です。

漫画の編集者は、営業、書店員、印刷所、広告メディア、そして読者。数多くの人々と漫画家を繋ぐ架け橋となり新時代のヒット作、名作を生み出すべく奮闘しています。

本作「重版出来!」に登場する多彩なキャラクター達もまた、編集者として、それぞれの価値観を持って作品作りに携わっています。

売り上げを第一に考える者。作家の個性を第一に考える者。読者の喜びを第一に考える者。三者三様の編集道を歩んで行く彼らの物語を是非、楽しんでご覧ください!

動画見る前に原作読みたい!という方はebookjapanで漫画「重版出来!」が無料で読む事ができます。(記事執筆時)

重版出来!1巻重版出来!1巻

野木脚本の真髄はお仕事ドラマにあり!

これまでは「重版出来!」本編の概要についてご説明致しましたが、ここからはいよいよ本題。

新進気鋭の脚本家、野木亜紀子の脚本が如何にして我々の胸を打つのか。その秘密を紐解いていきたいと思います。

脚本家とか、監督とか、演出家を意識する意味ってあるの?

重版出来!(C)TBS(C)松田奈緒子/小学館

普段、テレビドラマを見る時に、脚本家は誰で、演出家は誰で、監督は誰かなんて、あまり着目する事はないかもしれません。

ですが、私は皆様に是非、作り手に着目して作品を見て頂きたいと思うのです。何故ならば、この世のあらゆる創作物は人の手によって作られるからです。

そこには作り手の人間性が必ず滲み出るものです。もちろん、作り手の皆さんも仕事ですから、決められたお話を、決められた期間で、決められた方向性にまとめ上げる訳ですが、不思議なもので、どうしても滲んでしまう作家性というものがあります。

作り手を意識して作品を追う事は、そうした、少し滲んだ作り手の個人性を掬い上げて味合う、受け手としての最高の贅沢です。

複数の作品の中に、同じ作り手だからこそ共通する要素や、ちょっとしたエッセンスが含まれ、それを見つけ出せた時、そこにはただ物語を消費するのとは違う、格別の喜びがあるのです。

本記事から、連作でご紹介させて頂きます、野木亜紀子氏を是非、意識して見る最初の一人にして頂けたなら、彼女のファンとして、これ以上の幸いはありません。

重版出来!(C)TBS(C)松田奈緒子/小学館

野木亜紀子って、そもそも誰?

さあ満を持しての本題です。

野木亜紀子は現在44歳。

あの坂元裕二(カルテット、mother)、野島伸司(101回目のプロポーズ、高嶺の花)らを輩出した脚本家の登竜門、フジテレビヤングシナリオ大賞を「さよならロビンソンクルーソー」で受賞した女性脚本家。

カルテットParavi(パラビ)で見放題配信中!今だからこそ、TBSドラマ【カルテット】を語ろう

近年では、「逃げるは恥だが役に立つ」、「アンナチュラル」などの超・超・超話題作を手掛けた事で一躍、注目株の脚本家となりましたが、その脚本家としてのキャリアは意外や意外、なんとまだ9年。

決して経験の長さが手腕に比例する訳ではありませんが、それでもやはり、この短期間で急速にスターダムに上り詰めた人物である事は間違いありません。

2018年初頭に「アンナチュラル」(TBS)、秋には「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(NHK)、「獣になれない私たち」(日本テレビ)を連続して発表し、その三作すべてが野木のオリジナル脚本。これはハッキリ言って、かなりの異例です。

彼女ほどの圧倒的人気があってこその異常事態であり、近年のテレビドラマ業界では今、野木旋風が吹き荒れていると言っても過言ではありません。

野木脚本の特徴としては、コメディリリーフで親しみやすいキャラクター造形や、第一話から緻密に積み上げられた伏線、制作前の取材によって培われた圧倒的な知識によるリアルなお仕事描写。この三点が挙げられます。

「空飛ぶ広報室」(TBS)では航空自衛隊の広報室。「重版出来!」では漫画雑誌の編集部。「フェイクニュース」ではネット情報メディアの編集部。「アンナチュラル」では法医解剖医。「逃げるは恥だが役に立つ」では家事労働も立派なお仕事の一つとして描いています。

アンナチュラル ドラマ【連作コラム第3回】~野木亜紀子論「アンナチュラル」編~

様々な業界の人々の仕事を徹底的に研究し、その内側を分かりやすく且つリアルに物語に落とし込んでいく。何事にも正面から真面目に向き合う彼女の眼差しは、脚本にも如実に現れています。

彼女の作品に登場するキャラクターには、三者三様の立場がありますが、その一人一人にしっかりとしたリアリティが持たせられ、決して物語の都合だけで動く平坦な人物にはなりません。主人公や仲間達が思い描く理想や正義に対立するキャラであっても、そこには立場が違うからこその切実さ、正しさがあるのです。

重版出来!をAmazonプライム・ビデオで観る

重版出来!をHuluで観る

「重版出来!」に光る野木脚本の妙!

重版出来!(C)TBS(C)松田奈緒子/小学館

ここからは野木亜紀子の手腕がとりわけ光るオススメの回をご紹介致します。もちろん、全話通して非常に高いクオリティの作品であるのが「重版出来!」ですが、その中でも一際、傑作と呼べる回をピックアップしましたので、ご鑑賞の際の参考にして頂ければと思います!

第二話「これが僕の仕事だ!幽霊社員本気の営業!」

この回の主役となるのは、コミック営業部の小泉(坂口健太郎)。彼はうだつの上がらない平凡な社員としてなんとなく仕事をこなす毎日だった。書店員からは覇気の無い佇まいを幽霊と揶揄される体たらく。だがしかし、ある日、新人編集者の黒沢心と共同で営業活動をすることになり、仕事にどう取り組むのか、仕事をする喜びとは何なのかを次第に見出して行く・・・。

この回は何周しても落涙を禁じえません。

頑張るって言葉がどうにも嫌いで、ついつい手を抜いてしまう。本気で物事に取り組む事が出来ない男、小泉。多くの視聴者が共感を覚えるのはこのキャラクターなのではないでしょうか。どこか違う気がする。今の居場所が自分にはあっていないんじゃないかって。そんな漠然とした違和感。

だけど、野木亜紀子はそんなキャラクターに優しい気付きの機会を与えます。今の自分の居場所がどこなのか分からない。そんな状態でここではない何処かを夢見ていても何処に行くべきかも見定まらない。

今の自分の立ち位置をしっかりと見極め、そこでまず踏ん張って立ち上がって見なければならないのだと。

重版出来!1巻重版出来!1巻

第四話「目指せ金の卵発掘!新人ツブシに宣戦布告」

第六話「勝ち続ける仕事術・・・新人ツブシの秘密とは?」

この二つの話はほぼ二部構成になっています。

心の所属する「週刊バイブス」編集部一の稼ぎ頭、安井(安田顕)。彼にはある一つの異名があった。ツブシの安井。売り上げの為に右も左も分からない新人を使い潰して捨ててしまう彼は一体、どんな理念で仕事に取り組んでいるのか。

夢を描いて人生を賭けた勝負に出る漫画家達と、出版社の中で会社員として働く者の立場の違いが悲劇を生んでしまう胸に痛いお話となっていますが、ここにも野木脚本ならではのキャラクターへの真摯な眼差しが伺えます。

安井という男の過去と、それが彼の人生をどう変えてしまったのか、全ての働く者達にとっても身につまされる話です。ダークヒーロー安井、ラストカットの背中に痺れます。

これ以降の回にも、絵はド下手だがストーリーや雰囲気は一級品の新人、中田伯がデビュー出来るのかどうかや、斜陽となりつつある出版業界で漫画はどうすれば生き残れるのかなど、思わず一緒になって悩んで頭を抱えてしまうような展開が待っていますが、その一つ一つのテーマに、「週刊バイブス」の編集部や漫画家達がどう向き合って行くのか、是非、その目で見届けてください!

本日、紹介した作品「重版出来!」は動画配信サービス「Amazonプライム・ビデオ」、「Hulu」にて配信中!いずれも無料のお試し期間がありますので、ぜひご覧ください!

重版出来!をAmazonプライム・ビデオで観る

重版出来!をHuluで観る

野木亜希子連載の続きはこちらから。

逃げるは恥だが役に立つ【連載コラム第2回】~野木亜紀子論「逃げるは恥だが役に立つ」編~ アンナチュラル ドラマ【連作コラム第3回】~野木亜紀子論「アンナチュラル」編~ 獣になれない私たち【連作コラム第4回】~野木亜紀子論「獣になれない私たち」編~

(2019年6月現在の情報です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。)