本コラムは、Amazonプライム・ビデオにて配信中のコンテンツを、監督や脚本家などの作り手に着目して解説&オススメする映画コラムです。
今回のテーマはジョン・カーニー監督。
音楽と恋、人生の再生を鮮やかに写し出す彼の作風と、その魅力を余すところなくご紹介して行きたいと思います。
ジョン・カーニーって誰?
ジョン・カーニー監督のフィルモグラフィを振り返ると共に、監督作に共通する特徴をご紹介いたします!
アイルランド発、音楽で語る男ジョン・カーニー!
ジョン・カーニーはアイルランド生まれの現在47歳。
欧州の中でも有数の大都市、ダブリンにて育ち、8~90年代と黄金期のUKロックシーンに親しみ続けた青年でした。
自身もベーシストとしてバンドに加わり、音楽活動に精を出す傍ら、短編の自主制作映画を撮影するなどして、徐々に映画監督としてのキャリアを形成して行きます。
その初期キャリアの作品群は、残念ながら日本では未公開の作品が多く、輸入盤ソフトで鑑賞する事しか出来ません。
彼の作品が初めて海を渡り日本へと届いたのは2007年。
「ONCE ダブリンの街角で」でした。
出世作「ONCE ダブリンの街角で」
彼自身の生まれ育った街、ダブリンで音楽に情熱を燃やす青年を描いた本作は、本国での公開後すぐに話題となり、独立系映画(配給会社などのプロデュースを受けていない作品、自主制作映画のこと)に送られる映画賞、「インディペンデント・スピリッツ賞」を受賞。
日本でもミニシアター系列で公開され、多くの映画ファンの心を射止めました。
冒頭、ハンディカメラで映し出されるダブリンの街角。そこでギターを手に歌う青年の姿。
金もなければ、名声もない。それでもギター一つで人生に立ち向かい、夢のためもがき続ける姿は、かつてバンドマンとして夢を持っていた自分の姿そのもの。その足跡を穏やかに思い出すように、緩やかに揺れるハンディカメラの映像。
劇中で何度も登場し、強烈な印象を残す名曲「Falling slowly」。
人生という船旅の中、自分の向かうべき夢へと力強く漕いでいくこの曲のイメージは今後も彼の作品に重要なモチーフとなって行きます。
人生を夢に賭ける覚悟が持てず、ずるずると時間を費やしてしまっている主人公に、突然訪れた転機。
街角での人生を変える出会いをオリジナル楽曲と共に写し出すジョン・カーニーの出世作を是非、ご覧ください。
一度見れば、彼の映画の不思議な暖かさにきっと勇気を貰える事と思います。
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全米を席巻した傑作「はじまりのうた」
(C)2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
2013年、ジョン・カーニーの音楽映画史に重大な転機が訪れます。
アメリカの地で、前作とは比べものにならない規模と予算を得て作られた作品、「はじまりのうた」。
本作には、新たな地で夢を追う不安や、商業主義で失われて行く情熱という苦々しいモチーフを使いつつも、音楽が人の心を繋ぎ、傷を癒して行く優しいリスタート(Begin Again)の作品に仕上がっています。
(C)2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
前作「ONCE ダブリンの街角で」でも、夢のために覚悟を決めてスタートへ踏み出す様を描いてきたジョン・カーニー。
彼の作品を作り出す大きな要素とは、音楽と夢。
厳しい現実や、鬱屈した毎日を音楽と夢によって切り開いて行く物語には、人生を強く肯定する彼なりの人間賛歌が込められているのです。
きっと彼にとっても、「はじまりのうた」は挑戦の作品だった筈。
故郷アイルランドを遠く離れ、ハリウッドの地でマーク・ラファロやキーラ・ナイトレイといったスター達をメインキャストに撮影する。
そこには劇中のキャラクター達と同じく、不安やジレンマがあったに違いありません。
けれど、それを振り切って、しっかりと自分らしい作品を作り上げた彼だからこそ、力強い肯定のメッセージを観客に投げかける事が出来たのだと思います。
(C)2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
そして2015年。最新作「シングストリート 未来へのうた」を発表。
(C)2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
本作は80年代のダブリンが舞台。
つまり、ジョン・カーニー自身の青春時代ともリンクする舞台設定になっています。
その頃のアイルランドはどん底でした。長く続いた不況により、国内の失業率は鰻登り。人々は荒み、傷付いた人達が行き場のない悲しみを抱えていた時代です。
主人公、コナーもその一人。三人兄妹の末っ子として生まれ、兄は大学を中退してハッパ中毒の引きこもり生活。失業中の父と、浮気疑惑の母。
安定を求めて夢を捨てた姉に囲まれて暮らしています。
学費削減の為、近所の高校へと編入する事になったコナーだが、編入先の高校「シング・ストリート校」は不良だらけの底辺校だったのです。(C)2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
最低最悪の毎日、それでもコナーには心の支えがありました。兄ブレンダンと共に見るテレビの音楽番組。海を隔てた向こう、ロンドンの輝かしい音楽シーンへの憧れだけが彼の日々に華を添えていたのです。
そんな中、学校の校門前で立っていた少女、ラフィーナに一目惚れしてしまうコナー。
なんとか口説き落とそうと、声をかけたコナーは「僕はバンドをやっている」、「PVを撮るから出て欲しい」などと大ボラを吹いてしまうのです。
ありもしない約束を取り付けてしまったコナーは、大急ぎでバンドを結成。学校のいじめられっ子達の寄せ集めバンド、シングストリートが誕生するのでした・・・。
本作は今まで以上に、監督の自伝的な内容になっています。
(C)2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
80年代の音楽シーンをなぞるような劇伴の数々と、クルクルと転身するコナーの髪型や衣装にも注目してくださいね!
10代のコナーは、影響を受けた人や物が如実に立ち居振る舞いに現れていたりして、それがまた何とも可愛いんです。
メイクをしてみたり、髪型を奇抜にアレンジしたり、急に服装をオシャレにしたり。
音楽性もどんどん変わって行って、その都度、言動も変わって行くんですが、その一貫性の無さがいい意味で若々しくていいなぁと思わされます。
色んな事を考え吸収して、柔軟に成長してく姿は、まだ目がキラキラと輝いていた頃の気持ちを思い起こさせてくれます。
今までの作品の登場人物とは違い、経験も確固たる思想もない彼ら。
音楽を始めるきっかけは憧れの女の子に近付きたいからと不純といえば不純な動機です。
けれど、貴重な青春の時間を仲間と共に音楽に費やしていく内、抜け出せない灰色の世界で鮮やかな感情を歌にする喜びを見出して行く。
始まりはどんな事でもいい。例え不純な動機であったとしても、心から楽しんで取り組むことで、人生において大事な何かを得ることが出来る。音楽という物を強く愛するジョン・カーニーだからこそ、そうしたテーマを嘘臭く無く語る事が出来たのだろうと思います。
表現というものは全て作り物で、空想の世界だからこそ、本物の感情を込める事が出来るし、暗い現実から自分を解き放つ事が出来る。ジョン・カーニーの作品には生み出すことの素晴らしさが共通して描かれているのです。
早く新作を作って欲しい!そんな願いと共に、本コラムを終えたいと思います。
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(2019年6月現在の情報です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。)