日本で映画が作られるようになって100年以上経過し、多くの監督を輩出するとともに、たくさんの名作も生まれてきました。このシリーズは世界に誇れる我が国の監督とその名作を紹介してきます!
まず第1回目は、昭和を代表し内外で高い評価を受けてきた巨匠監督とその代表作を紹介。
「世界のクロサワ」こと黒澤明『生きる』(1952年)
世界も認めた才能!映画監督黒澤明とその作品について紹介します。
「世界のクロサワ」こと黒澤明とは?
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黒澤明は1910年生まれ。東京都出身。享年88歳。
日本の映画賞はもちろんのこと、アカデミー賞や世界三大映画祭での受賞といった海外での評価も高く「世界のクロサワ」と言われるようになりました。その妥協を許さない姿勢やダイナミックな映像に心奪われた人たちは数知れず。
スティーブン・スピルバーグやフランシス・フォード・コッポラ、手塚治虫など映画監督のみならず幅広い分野の作り手に影響を与えた映画界の逸材です。そんな黒澤映画の中でも今回取り上げるのは映画『生きる』です。
人間の神髄を描いた不朽の名作映画『生きる』
ある日、市役所に務める市民課長の渡辺は自分の命が残り僅かだと知ります。今まで実直だった渡辺が自暴自棄になり、夜の街をさまよいながら酒を飲み歩き周囲を呆れさせることに。
自分の人生は一体何だったのか……。人間が‘生きる’ということは……。そんな渡辺が初めて自らの存在価値を見出すために最後に成し遂げたこととは?
ヒューマニズムの名手・黒澤が放つ人間賛歌がこの映画『生きる』なのです。
“永遠に通じるものこそ常に新しい” 小津安二郎 『東京物語』(1953年)
日本映画界屈指の巨匠・小津安二郎を紹介します。
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独自のローアングル手法“小津調” を確立!
小津安二郎は1903年生まれ。東京都で生まれ、父の故郷三重県へ移住。享年60歳。
映画『東京物語』がロンドン国際映画祭でサザーランド賞を受賞。これを機に海外でも評価を得ることになります。
後世の監督たちに影響を与えたことは言うまでもなく、日本だけでなくヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュなど海外の監督にも多大なる影響を与えました。それは独自のロー・ポジションアングルや映像の美しさ、こだわり抜いた演出法など映画界に偉大な功績を残したのです。
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小津安二郎の魅力のつまった名作『東京物語』
年老いた親やその子供たちを通して描かれる家族愛。これまでの作品ですでに描かれてきたテーマではありますが、さらに完成度を高めたのが映画『東京物語』なのです。
©1953/2011松竹株式会社
小津作品には欠かすことのできない笠智衆と原節子を主演に迎え、静観しながら冷静に普遍的な家族の愛というものを描いています。
女性を描かせたら天下一品! 溝口健二『西鶴一代女』(1952年)
女性映画の巨匠と言われるほど女性の真の姿を描き続けた溝口健二監督を紹介します!
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長回しの名手・溝口健二。徹底したリアリズム主義に脱帽!
溝口健二は1898年生まれ。東京都出身。享年58歳。
黒澤明や小津安二郎同様、国際的に高い評価を得てきた世界の巨匠のひとりです。特にヴェネツィア国際映画祭では3度も受賞を果たしています。
彼の作風は徹底したリアリズムを目指しているところ。監督デビュー作『愛に蘇る日』では貧乏生活をあまりにも写実的に描きすぎてカットされた経験もあるほどです。
また、女性を描くことに長けていて、その姿を一貫して得意のリアリズムで描き続けてきました。さらにワンシーン・ワンカットという長回しやロングショットを好み独自の作風を生み出していき世界の名匠たちにも影響を与えました。
二人の天才がスランプを脱した貴重な秀作『西鶴一代女』
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『西鶴一代女』は井原西鶴の浮世草子『好色一代女』が原作。主演に田中絹代を迎え、彼女の名演と溝口の熱意によってその当時スランプだった二人の復活を遂げた作品となりました。
男性に弄ばれた波乱の人生を送るお春という一人の女性の生涯を描いた本作は、女性に寄り添いながら描き続けてきた溝口の語り口が存分に楽しめます。ヴェネツィア国際映画祭では国際賞を受賞した傑作です。
小津や溝口が認めた才能!清水宏『按摩と女』(1938年)
小津や溝口と同世代に生きた隠れた天才映画監督・清水宏を紹介します!
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没後に再評価!今こそ見てほしい異彩を放つ映画監督・清水宏とは?
清水宏は1903年生まれ。静岡県出身。享年63歳。
清水が監督デビューした頃は、スタジオでセットを組んで撮影するのが主流の中、オールロケーションでの映画作りにこだわりをみせ高く評価されることに。景色だけでなく芝居にも自然さを求め、子どもや新人俳優を積極的に採用する傾向にある監督でした。
その際立った才能を早くから認めていたのが、同世代の小津や溝口といった巨匠たち。清水が存命時には正しく評価されていなかったという人もいます。時代が彼に追いついていなかったのかもしれません。
『山のあなた~徳市の恋~』は『按摩と女』の完全カヴァーだった!
(C)2008 フジテレビジョン・J-dream・東北新社・東宝
2007年に草彅剛主演で製作された石井克人の『山のあなた~徳市の恋~』は、清水宏の『按摩と女』の完全カヴァー作品。石井は現代にも通じるその作品力に惹かれたとのこと。
(C)2008 フジテレビジョン・J-dream・東北新社・東宝
このオリジナル『按摩と女』は、盲目の按摩師・徳市が温泉宿で出会った妖しく美しい女性に惹かれていく物語です。ロケーションの美しさ、登場人物の無垢さ、どれをとってもそのセンスが光る至極の名作です。
多くの監督から信頼され尊敬された成瀬巳喜男『浮雲』(1955年)
黒澤明が助監督を務め、最も尊敬していたと言われている成瀬巳喜男監督を紹介します。
女性映画の名手!女性の視点から女心を描く成瀬巳喜男
成瀬巳喜男は1905年に生まれ。東京都出身。享年63歳。
女性映画の名手といわれています。溝口健二もまた同様に評価されることが多いですが、溝口監督が客観的にみた女性を描いていたのに対し、成瀬監督は女性に入り込みその視点で描いていたという点が大きく異なります。
撮影中の時間の使い方にも無駄がなくスタッフからもとても慕われていた成瀬監督。情緒のあるせつない作品が多かったことから“ヤルセナキオ”などと呼ばれていました。
現代にも通じるダメ男名言多数!『浮雲』
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成瀬巳喜男の代表作としてよく挙げられるのが『浮雲』です。一方で彼の作品の中ではかなり重い雰囲気であり異質だとの評価もあります。
主演は高峰秀子。妻のある男性にのめり込んでいく女性を演じ、相手役を森雅之が演じました。これまた相当なダメ男で、黒澤明や小津安二郎にはとうてい出てこないキャラクターです。ダメ男ぶりを現すその名言が多数あります。
なぜかそんな男性に惹かれてしまう女性。普遍的な男女の業が描かれている作品です。
本当の人間を描くことの貫いた「信念の人」木下恵介『楢山節考』(1958年)
日本映画界の一時代を築き上げた天才・木下恵介監督を紹介します。
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さまざなジャンルの作品や実験的映像表現への挑戦者・木下恵介とは?
木下恵介は1912年生まれ。静岡県出身。享年86歳。
ライバルで盟友の黒澤明と共に、日本映画界を牽引してきた天才監督。その作品は人間の強さや弱さ、喜びや悲しみなど普遍的なテーマを扱い「本当の人間」とは何か生涯に渡り描いてきた監督です。
一方で映像表現においてはチャレンジャーの面もあり、日本初の長編カラーの映画制作や全編カメラを傾けての撮影、モノクロ映画に部分的に色を焼き付けるなどの手法を用いています。また作品も多様性があり、喜劇、メロドラマ、社会派などさまざまなジャンルに取り組みました。
歌舞伎のような様式美の中描かれる哀しき物語『楢山節考』
おりん役の田中絹代は、撮影のため自らの前歯を何本か抜いて演技しました。辰吉役の高橋貞二も役柄のため15㎏の減量し撮影に臨んだそうです。
そして作品の評価は高く国内はもちろんのこと、ヴェネツィア国際映画祭に出品され世界中に衝撃を与えました。
エンターテイメントを追求した至高の映像作家・市川崑『犬神家の一族』(1976年)
アニメーション監督から実写映画の監督へ!異色の天才市川崑を紹介します!
生涯現役を貫いた日本映画の至宝・市川崑監督とは?
市川崑は1915年生まれ。三重県出身。享年92年。
テレビ放送に反感を持つ監督が多い中、いち早くその可能性を見出し映画監督としては積極的に進出。その作風もさまざまでスローモーションを巧みに使い、独特なカット繋ぎのことを“コン・タッチ”と呼ばれました。
娯楽性を大事に、あらゆるジャンルの作品に取り組む姿勢を批判する人たちもいましたが、市川監督の作品は時代を感じさせぬスタイリッシュさが光ります。彼の作品に影響を受け庵野秀明など自分の作品でオマージュを捧げている監督も少なくありません。
映画への情熱は衰えることなく92歳で亡くなる直前まで作り続けていました。杖がないと歩けない体になっても、撮影現場で白熱してくると杖を投げ捨て歩き出そうとする程でした。
なんと遺作は自身のリメイク作品!『犬神家の一族』
(C)2006 「犬神家の一族」製作委員会
1976年に角川映画の第一弾としてメディアミックス展開させ大成功を収めたのが一回目の『犬神家の一族』。原作は横溝正史の金田一耕助シリーズのひとつです。
(C)2006 「犬神家の一族」製作委員会
遺作となった2006年版でも一作目同様、主演に石坂浩二を迎え、脚本もオリジナルのままというこだわりぶり。セルフリメイクを引き受けた理由は、自身の作品を超えてみたいという思いがあったからだといいます。
生涯現役、映画監督として最後まで生きぬいた市川崑でした。
反骨精神を持った世界の巨匠小林正樹『人間の條件』(1956年~61年)
カンヌ、ヴァネチア、ベルリン等、世界の映画賞を渡り歩いた名匠・小林正樹監督を紹介します。
世界の映画賞でその名を轟かせる日本人監督・小林正樹
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小林正樹は1916年生まれ。北海道出身。享年80歳。
女優の田中絹代とは又従妹ではありましたが、すでに名が知れていた田中との関係は隠して映画業界へ入りました。それ以降、田中が亡くなるまで面倒をみていたのが小林監督だったといいます。
その作品は国外での評価も高く、『怪談』でのカンヌ国際映画祭審査員特別賞、『人間の條件』でのヴェネツィア国際映画祭サン・ジョルジョ賞・イタリア批評家賞、『東京裁判』でのベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞などを受賞しています。まさに日本が誇る映画監督のひとりです。
社会派、ヒューマニズム、不条理への反骨……『人間の條件』
梶役に仲代達也が起用され、全3部作の全編通して見事にその大役を演じきりました。小林自身の戦争での軍隊経験が活かされた作品です。
戦争経験で感じた理不尽さ、そこから生まれた社会へ何かを発信していきたいという思い、その一途な信念こそが小林監督の映画作りの神髄なのかもしれません。
(2019年9月現在の情報です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。)