ちょうど今から3年前の2016年。その作品の素晴らしさが徐々に広がり、日本中を感動の渦に巻き込んだ映画『この世界の片隅に』。その人気もさることながら評価も高く、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞や仏・アヌシー国際アニメーション映画祭優秀作品賞など国内外で、なんと70以上の賞を受賞するまでに。
今なおロングランを記録している映画『この世界の片隅に』に新エピソードを追加し、映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開されます。その魅力をたっぷり紹介してきます。
(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
まずは映画『この世界の片隅に』について
映画『この世界の片隅に』についておさらいしていきましょう。
*原作はこうの史代原作のマンガ「この世界の片隅に」
映画『この世界の片隅に』は、こうの史代の同名漫画が原作。この作品は、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞の受賞や各メディアランキングでも堂々の1位に輝きました。
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
「この世界の片隅に」の前に刊行した、こうの史代の代表作「夕凪の街 桜の国」でも第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞や第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。この作品は後に実写映画となりました。
「夕凪の街 桜の国」も「この世界の片隅に」も同じ“戦争と広島”をテーマにしています。こうの史代は戦争を体験はしていないものの広島県出身ということもあり、綿密なリサーチを経て、まずは「夕凪の街 桜の国」に挑戦。
そこで、改めて原爆以外の死、戦争全体にもう一度向き合うことを目的に「この世界の片隅に」の執筆にあたったといいます。第二次世界大戦最中、広島・呉を舞台に、そこに嫁いだヒロインが前向きに生きようとする姿や彼女の周囲の人々の日常を描いた作品です。
*映画ができるまで~運命の出会い~
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
初めに、片渕須直監督がこうの史代のマンガ「この世界の片隅に」をアニメ化したいと企画しました。そこで、プロデューサーが出版社に確認したところ、実は映像化の企画は進行していたといいます。
ただ、実写の企画であり、アニメに関しては別で動けるかもしれないという希望はありました。そこで、片渕監督は、自らのアニメ化への思いを綴った手紙を原作者・こうの史代へ届けます。
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ここで奇跡が。片渕監督が以前監督していたアニメ作品に、こうの史代自身も影響を受け、「いつか自分もこんな物語を描きたい」と思っていたとのこと。その偶然が引き寄せた、まさに「運命」の作品なのですね。
*映画ができるまで~人々の思いをのせた応援支援~
原作者・こうの史代からの権利は獲得したものの、資金調達には難航したいた映画『この世界の片隅に』。理由は、「ヒットの要素が見当たらない」ということでした。
そこで、当時はまだ珍しかったクラウドファンディングを使いました。集まったサポーターは、3,374名。その人たちから39,121,920円の制作資金が集まりました。
https://twitter.com/konosekai_movie/status/1182009111665205248
そして、サポーターたちは、宣伝隊長として、SNSで発信し続けてくれたのです。この資金でまずはパイロット版が制作され、本編の完成にこぎつけました。
『この世界の片隅に』はこんなストーリー
1944年広島。18歳のすずに縁談話が持ち上がり、生まれ育った江波から顔も見たことがない見知らぬ男性の元へ嫁いでいきます。すずの嫁ぎ先の呉は、軍港の街として栄えていました。彼女の夫は、海軍勤務の文官・北條周作。
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
おっとりした性格のすずが突然、一家を支える主婦になることに。配給物資が減っていくにも関わらず、夫の両親、義姉やその娘と共に工夫を凝らしながら明るく生きていくすず。そんな中、慣れない土地で迷い込んだ遊郭ですずは、遊女のリンと出会います。
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
また小学校の同級生・水原哲も現れ、複雑な想いを抱えていくのでした。やがて戦況は激しくなり、軍艦も街並みも破壊されていきます。そして、1945年の8月を迎えるのですが……。
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の追加シーンとは?
映画『この世界の片隅に』は、2019年夏には、公開から連続上映1000日を迎えました。観客動員数は210万人、興行収入は27億を突破。世界60以上の国と地域で配給されています。
本日8月15日、74回目の終戦の日を迎えました。
この世界のあちこちで灯るたくさんの人々の笑顔。そしてかけがえのない暮らしを想い、深く平和を祈ります。#この世界の片隅に#いくつもの片隅に pic.twitter.com/LtsMDTODoa— 映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』&映画『この世界の片隅に』公式 (@konosekai_movie) August 15, 2019
片渕監督の中では、原作にまだ魅力的なエピソードがあり、それを書き足すことで主人公・すずだけなく、「さらにいくつもの人生」を描きたいという思いがありました。そこで、新たな制作がスタート。元々の作品から一部主題も変更され“もうひとつの映画”として製作することから、新タイトルは片渕監督による案を原作者のこうの史代に相談し決めました。
https://twitter.com/konosekai_movie/status/1197832096208715776
追加されたシーンは、すずとリンの交流を描いた昭和19年秋と昭和20年冬から春にかけてのエピソード、妹すみを心配しながら迎える昭和20年9月の枕崎台風のシーンなど。その他、新しい登場人物、これまでの登場人物の別の側面なども描かれて約30分間追加になったといいます。
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
特に今回注目は、前作では描かれなかった、すず、周作、リンの関係性を掘り下げているところ。リンが見せてくれたノートの切れ端とすずが周作の部屋で見つけたページの一部が切り取られたノートが同じことからすずの心の揺れを描いています。
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のストーリー
1944年。日本はまだ戦争真っ只中ありました。広島県の江波から呉に嫁いだすずは、夫の周作や彼の家族と共に新たな生活を始めることに。
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支援物資が徐々に減っていく中、すずは工夫を重ね日々の暮らしを明るく過ごしていきます。そんなある日、慣れない土地で迷い込んだ遊郭で、リンという一人の女性に出会うのです。
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呉で初めて出会った同世代の女性ということもあり心を通わせていく二人。その中で、夫・周作とリンとの関係に気付いてしまいます。しかしながら、そのことを胸にそっとしまい込むすずでした……。
戦況はさらい激しくなる一方。軍港のある呉は大規模な空襲に見舞われます。すずの大事なものが次々に失われていくのでした。そうして、1945年の終戦を迎えるすずは……。
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映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』キャラクター
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に登場する主なキャラクターとその声の出演をしているキャストを紹介します。
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北條すず/CV:のん
本作の主人公。広島県江波の海苔梳きの家で育ち18歳で呉に嫁ぎます。幼い頃から絵を描くことが得意なすずを演じるのは、のん。
のんは、1993年生まれ兵庫県出身。絵を描くことや、洋服を作ることが得意で自らの作品をSNSなどで発信しています。本作では、片渕監督に熱望されアニメーション映画初主演を飾りました。
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
北條周作/CV:細谷佳正
すずの夫で、呉鎮守府の軍法会議議事。子供の頃に一度だけ会ったことのあるすずと見合いをし結婚する北條周作を演じるのは、細谷佳正。
細谷佳正は、1982年生まれ広島県尾道市出身。アニメだけでなく、海外ドラマや洋画の吹替、ナレーションなどでも活躍しています。主な声の出演は、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』や『亜人』など。
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白木リン/CV:岩井七世
呉にある遊郭の遊女。道に迷ったすずと偶然出会いますが、実は周作ともつながりがあるリンを演じるのは、岩井七世。
岩井七世は、1989年生まれ神奈川県出身。2001年より、NHK『天才てれびくん』にて活躍。その後はモデルとしても活動し、現在は女優としてテレびドラマや映画、舞台など活動の幅を広げています。本作で声の出演は2度目です。
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
テル/CV:花澤香菜
リンと同じ遊郭で働いていて、すずが出会うもうひとりの女性です。のちに、若い水兵と身投げするも助けられるテルを演じるのは、花澤香菜。
花澤香菜は、1989年生まれ東京都出身。子役から芸能活動を開始。ドラマやCM、バラエティなどで活躍していました。14歳で初めて声優のお仕事をして以来、それ以後、声優としての活動が中心となります。話題作に続々と出演。主な声の出演には、「PSYCHO-PASS」シリーズ、映画『言の葉の庭』など。
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
水原哲/CV:小野大輔
すずの小学校時代の幼なじみ。すずとは互いに惹かれ合いつつも、結ばれることはなかった水原哲を演じるのは、小野大輔。
小野大輔は、1978年生まれ高知県出身。元々制作希望でしたが、後に声優を目指すことに。話題作への出演も多数。主な声の出演に、「進撃の巨人」シリーズ、「黒執事」シリーズ、映画『宇宙戦艦ヤマト2199』などがあります。
© 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
浦野すみ/CV:潘めぐみ
すずの年子の妹。女子挺身隊として工場に動員されている浦野すみを演じるのは、潘めぐみ。
潘めぐみは、1989年生まれ東京都出身。母も声優として活躍中の潘恵子。女優として活動するも、2011年のテレビアニメ『HUNTER×HUNTER』で主演に抜擢され声優としての活動も開始。主な声の出演は、テレビアニメ『俺物語!!』やテレビアニメ『フルーツバスケット』、「ハピネスチャージプリキュア!」シリーズなど。
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』監督・脚本
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の監督・脚本は、前作に引き続き片渕須直監督です。そのプロフィールを紹介してきます。
1960年生まれ。日本大学芸術学部映画学科在学中から、宮崎駿監督作品に脚本として参加。映画『魔女の宅急便』では、演出補を務めました。
テレビアニメ『名犬ラッシー』で監督デビュー。その後も、監督、脚本、シリーズ構成など数多くの作品を世に送り出します。2009年に監督した映画『マイマイ新子と千年の魔法』が高い評価を受けました。
片渕須直監督は本作にあたり、こんなコメントを発表。「戦争しおってもセミは鳴く。ちょうちょも飛ぶ。そして、人には人生がある。それが戦争中であっても。明るくぼーっとした人のように見えるすずさんが自分以外の「世界の片隅」と巡り合うとき、すずさんの中にはどんな変化が生まれるのでしょうか。すずさんの中にあったほんとうのものを見つけてください」と。
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』音楽
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の音楽は、前作に引き続きコトリンゴが担当。前作では、日本アカデミー賞優秀音楽賞や毎日映画コンクール音楽賞など受賞しました。
ビックカツ、シゲさん経由でいただきました〜。アルピニスト! pic.twitter.com/5zRfLa0wFE
— コトリンゴ kotringo (@kotringo) February 14, 2014
片渕監督とは、映画『マイマイ新子と千年の魔法』でもタッグを組み、片渕作品にはなくてはならない存在です。本作でも、主題歌を含む全ての劇中曲を手掛けました。その自然でやわらかい歌声が、すずの世界を優しく包み込んでいます。
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』まとめ
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、前作からさらにパワーアップして帰ってきました。作り手からサポーターの思いがたくさん詰まった本作をぜひお見逃しなく!
(2019年12月現在の情報です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。)