篠原哲雄監督と山崎まさよし。初監督と初主演で臨んだ映画『月とキャベツ』が誕生してから早23年が経過しました。
当時、山崎まさよしの主題歌「One more time,One more chance」の大ヒットも相まって、通称“月キャベ”は伝説的な映画となったのです。そんな二人が、ふたたびタッグを組んだ映画が『影踏み』。
『月とキャベツ』のようなハートフルな作品とはまた違って、横山秀夫原作のミステリー小説「影踏み」を原作としたクライム・サスペンスです。そんな映画『影踏み』の魅力を紹介していきます。
(C)2019「影踏み」製作委員会
映画ができるまでの軌跡
映画『影踏み』ができるまでには、23年前の『月とキャベツ』の存在が大きく関与しています。この作品がなければ、『影踏み』という映画は出来上がらなかったかもしれません。
小さな奇跡の積み重ねが大きな軌跡を生み出し、本作は完成までに至りました。そこで、映画『影踏み』が出来上がるまでの道のりを紹介していきます。
伊参スタジオ誕生
群馬県が「人口200万人」達成を記念し一本の映画を作りました。それが小栗康平監督の映画『眠る男』です。
その撮影や合宿所として使用したのが、当時、廃校となっていた中之条町の旧第四小学校。映画のために改装されました。『
眠る男』が完成してからも、中之条町では、劇中のセットや小道具を保存し、伊参スタジオ公園として一般に公開することに。これが伊参スタジオの始まりです。
加えて、映画作りの拠点としてこの場所を使っていこうということになります。その第一弾として製作されたのが、ほかならぬ映画『月とキャベツ』だったのです。映画がヒットすると、ロケ地訪問としてファンが訪れるようになりました。
伊参スタジオ映画祭
2001年のこと。この伊参スタジオで映画祭が企画されることに。中之条町内外からボランティアスタッフが集まってきました。現在も続くこの映画祭の恒例行事となったのは、毎年必ず『月とキャベツ』をフィルムで上映すること。
2003年からは若手育成のため、「伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞」も創設されました。2013年~2015年には群馬県出身の横山秀夫も審査員として参加。こうして、徐々に布石が敷かれていったのです。
2016年のイベントで
伊参スタジオ映画祭がいつものように開催された2016年。この年、『月とキャベツ』の公開20周年を記念して、上映後、山崎まさよしのミニコンサートが行われました。
この時、同じく上映された映画『64-ロクヨン-』の原作者として、イベントに参加した横山秀夫も会場に来ていました。ここで山崎と横山は初対面を果たします。
山崎は横山の大ファンで、全作品を読破しているほど。横山も山崎の音楽に惹かれていたところ、当然のごとく二人は意気投合します。
「篠原哲雄監督と山崎まさよしの“月キャベ”コンビで横山原作を映画化しよう」という企画が持ち上がるのでした。数か月後、横山の方から「影踏み」はどうかと連絡を受けたのです。
横山秀夫の「影踏み」
その原作が数多く映像化されてきた横山秀夫。実は横山原作で唯一、映像化されていなかったのが、この「影踏み」だったのです。
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それは、泥棒を主人公にしている物語であると同時にファンタジーの要素も含まれる設定だということ。この二点がネックになって、これまでも企画こそは持ち上がりはしても実現までに至らなかったのです。
それを今回、篠原哲雄監督は見事に映画化してみせました。横山自身も感心しているといいます。
山崎まさよしの音楽
本作は、“月キャベ”同様に山崎まさよしが主題歌を担当しています。それに加えて、劇中の音楽も手掛けることに。
自らが主演する映画のラッシュ映像を何度も見返しながら、書き下ろしました。彼が劇中の音楽を担当するのは、映画『8月のクリスマス』以来のこと。
劇中音楽を担当することは最初から決まっていたようで、真壁というキャラクターを演じながらアイデアを膨らませていったといいます。さまざまな工夫を凝らし、音楽家としての才能も存分にみせてくれています。
また今回の主題歌に関しても、かなり思い入れがあるようです。こんなことを語っています。
「最初のイメージは、小さな子供二人が“影踏み”をして遊んでいるようなノスタルジックなもの。そこから、旋律とゆったり歩くようなテンポが自然に浮かんできた」と。主題歌は、映画のエンドロールで流れます。
この曲を聞いて、「ああ、だから『影踏み』だったんだと」と納得してもらえるような曲になっているようです。
映画『影踏み』あらすじ
深夜に寝静まった民家に侵入して盗みを働く、通称「ノビ師」。
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その忍び込みのプロと呼ばれる泥棒の真壁修一は、警察から「ノビカベ」とあだ名される程の腕をもっていました。
ある日の深夜、いつものように忍び込んだ先は、県議会議員の自宅でした。そこで偶然にも妻が夫に火を放とうとするところを目撃し、止めに入ります。
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その直後、幼なじみの刑事、吉川に逮捕されてしまうのです。2年後、刑期を終え出所した真壁は、気がかりになっていた疑問を晴らすべく独自に調査に乗り出しますが、そんな折、新たな事件が起こっていくのでした……。
山崎まさよしと彼を支えたキャストたち
映画『影踏み』の主な出演者たちを紹介します。
真壁修一/山崎まさよし
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「ノビ師」といわれる泥棒・真鍋修一を演じるのは山崎まさよし。
1971年生まれ。山口県出身。1995年に「月明かりに照らされて」という曲でメジャーデビュー。
翌1996年には初主演映画『月とキャベツ』で映画のヒットとともに、主題歌「One more time,One more chance」がこれまた大ヒットを記録。その後、数々の名曲を生み出し、時には他のアーティストへの提供などもしています。
役者としても活動。主題歌はもちろんのこと、劇中音楽なども手掛けてきました。ますます才能の幅を広げています。
安西久子/尾野真千子
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真鍋の恋人・安西久子を演じるのは尾野真千子。
1981年生まれ。奈良県出身。1996年に映画『萌の朱雀』でデビュー。その後も、テレビドラマや映画で活躍し、話題作に多数出演。
連続テレビ小説『カーネーション』では主役を演じ、数々の賞を受賞しました。横山秀夫原作の映画『クライマーズ・ハイ』にも出演。
演技派女優として、内外で高い評価を得ています。。プライベートでは明るい性格の彼女が、いざ役に入りと別人になると山崎まさよしも語っています。
啓二/北村匠海
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真壁のことを慕う啓二を演じるのは北村匠海。
1997年生まれ。東京都出身。子役から活動を始め、2008年の『DIVE!』で映画デビューをしました。
その後も、映画、テレビドラマと数多くの作品に参加。一方で、役者以外にもダンスロックバンド「DISH//」としても活躍中。
若手ながらその演技力には定評があります。山崎まさよしも彼が現場にいてくれたおかげで、なんとか乗り切れたとコメントしています。また、お互いに音楽活動もしていることから、かなり信頼を寄せあっていたようです。
篠原哲雄が挑むクライム・サスペンスとは
篠原哲雄は1962年生まれの東京都出身。森田芳光や金子修介、根岸吉太郎の助監督を務めながら、自主制作で映画を監督していました。
1993年の16ミリ映画『草の上の仕事』が自主映画ながら国内外の映画祭で高い評価を受け、劇場公開されます。この作品の主演は爆釣問題の太田光でした。役者ではない人間を演出する腕はこの頃からあったようです。
その後、山崎まさよしが初主演をした『月とキャベツ』がヒットし、次々と作品を発表。近年の作品では、2017年の映画『花戦さ』で、日本アカデミー賞・優秀監督賞を受賞しました。
篠原作品の特徴としてよく挙げられるのは、ハートフルなヒューマンドラマが多いということ。人物の心理描写などを優しく、丁寧に描いています。
どの作品も真摯に向き合うその姿に、監督の人柄が伺えます。本作『影踏み』は、そんな篠原哲雄監督だからこそ、描くことができたのではないでしょうか。
映像化が難しいと何度も実現しなかった原作を確かなキャリアと演出力で、クライム・サスペンスにファンタジー要素を抵抗なく自然に融合させることできたのでしょう。この監督でなければなしえなかった作品が映画『影踏み』なのです。
映画『影踏み』みどころ
映画『影踏み』の原作者・横山秀夫が本作を鑑賞した際に印象に残ったのが、「目」だったといいます。
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これはなかなか活字に起こすのは難しく映画ならではの「眼差し」があったそうです。特に主人公の真壁修一にそう感じたようです。
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活字が映像化されるときには、いろいろは形があります。こういう「目」の演技や演出は、やはり映像ならではと言えるでしょう。この原作者お墨付きの「眼差し」をぜひ映画の中でチェックしてみてください。
(2019年11月現在の情報です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。)