2019年10月より瀬々敬久監督の最新作『楽園』が公開されます。
吉田修一の小説「犯罪小説集」が原作。これまでピンク映画からデビューし、さまざまな作品を世に送り出してきた瀬々監督作品の中で、『楽園』を観る前にぜひチェックしておきたいものがいくつかあります。それらに共通しているテーマは“罪と人”。
罪と人を題材に、さまざまな視点で描いています。観ておくのとおかないのとでは、今後の作品に対する理解度も違うかもしれません。
(C)2019「楽園」製作委員会
これを観ずして瀬々敬久は語れない！映画『ヘヴンズストーリー』(2010年)
(c)2010ヘヴンズ プロジェクト
映画『ヘヴンズストーリー』は、完全オリジナルで製作された社会派ヒューマンドラマ。
脚本の佐藤有記は、映画『ユダ』や映画『泪壺』など多くの瀬々作品でタッグを組んできた逸材です。
上映時間4時間38分、全９章から成る壮大な物語は、ベルリン国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞や映画芸術日本映画ベスト10でも堂々1位に輝き、内外ともに高い評価を受けました。
(c)2010ヘヴンズ プロジェクト
1990年代に実際に起きた事件をモチーフに、家族を殺された少女サト、妻を殺された夫トモキを中心に、殺人を犯した少年ミツオ、強盗を殺害してしまった過去を持つ警察官カイジマなど20人以上の登場人物が複雑に絡み合っていく群像劇。
サトを寉岡萌希、トモキを長谷川朝晴、ミツオを忍成修吾、カイジマを村上淳がそれぞれ演じています。
自主製作のスタイルをとっている本作は、最初から資金が潤沢にあったわけではなく、撮影しては一度休んでというスタイルを繰り返し、トータルの撮影期間は実に一年半。
(c)2010ヘヴンズ プロジェクト
そこまでしてこの作品にこだわったのは、被害者と加害者の関係性、それぞれの個人のぶつかり合いを描く映画を作りたかったからだそうです。
(c)2010ヘヴンズ プロジェクト
この二者間で、どう気持ちを解決していくか、何を発言し、どう対応するのかを描きたかったと、あるインタビューで瀬々監督は述べています。1990年代にあった時代の鬱屈とした空気感をこの映画で語っているように感じます。これこそが、瀬々敬久が本当に作りたい作品なのかもしれませんね。
あの警察小説の最高峰の映画化！映画『64-ロクヨン-前編／後編』(2016年)
(C)2016 映画「64」製作委員会
映画『64-ロクヨン-前編／後編』は、「半落ち」や「クライマーズ・ハイ」で知られる横山秀夫原作の小説「64」の映画化です。
この物語は、実際に群馬県で起きた未解決の少女誘拐殺人事件がモデルと言われています。
横山自身も元新聞記者なので、もしかしたらその事件に思い入れがあるのかもしれません。
(C)2016 映画「64」製作委員会
小説の「64」は、「このミステリーがすごい！」や「週刊文春ミステリーベスト10」で1位を獲得した人気作です。2015年には、NHKにてテレビドラマ化もされました。
そんな本作を映画版では2部作で構成し、前編・後編と別々に公開。主演はいずれも佐藤浩市です。瀬々作品には、映画『ヘヴンズストーリー』から出演しています。
(C)2016 映画「64」製作委員会
「64」とは、昭和64年のこと。わずか7日間で終わったその間に、少女の誘拐及び殺人事件、通称「ロクヨン」が発生。しかしながら、未解決のまま残り1年で時効を迎えようとしていました。
当時、刑事部の刑事として捜査にあたった三上義信。現在は警務部の広報官として働いていました。そんなある日、時効を目前に「ロクヨン」を模倣した事件が起きます。果たして犯人は？その目的とは？
(C)2016 映画「64」製作委員会
出演は佐藤浩市以外にも綾野剛、榮倉奈々、瑛太ら若手組から、永瀬正敏、三浦友和、奥田瑛二、椎名桔平らベテラン組まで豪華キャストが勢ぞろいしました。事件に関わる加害者、被害者、警察、記者クラブの思惑うずめく人間模様。それぞれの立場でのさまざまな思いを描いた人間ドラマです。
(C)2016 映画「64」製作委員会
映画版では、原作と違う終わり方をしています。それが監督としてのこの物語に対する答えなのでしょう。ぜひ、自分の目で確かめてみてください。
(C)2016 映画「64」製作委員会
罪とは、罰とは……映画『友罪』(2018年)
(C)薬丸岳／集英社 (C)2018 映画「友罪」製作委員会
映画『友罪』は、江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビューを果たした薬丸岳の同名小説の映画化です。この物語は、1997年に神戸で起きた連続児童殺傷事件をモチーフにしています。
ジャーナリストへの道が閉ざされた益田は町工場で働き始めると、同じ頃、入社してきた鈴木と出会います。
(C)薬丸岳／集英社 (C)2018 映画「友罪」製作委員会
彼は技術こそはありますが、他の人間との交流を避けているかのようでした。
しだいに打ち解けていく二人でしたが、ある事件をきっかに鈴木があの「少年A」ではないかと疑うようになり……。益田を演じるのは生田斗真、鈴木を演じるのは瑛太。
(C)薬丸岳／集英社 (C)2018 映画「友罪」製作委員会
ほかの共演者にも恵まれ、瀬々組にはかかせない佐藤浩市や夏帆、山本美月、富田靖子などが脇を固めています。
いざ自分の身近の人間が過去に罪を犯していることを知ってしまったら人はどうするのか。罪を犯した人間はどう生きるべきなのか。そんなことを考えさせられる作品です。
(C)薬丸岳／集英社 (C)2018 映画「友罪」製作委員会
重いテーマだからこそ、普通の若者がやるようなカラオケなどの何気ないシーンが心和ませてくれます。罪と人を描くことに興味があるという瀬々監督ではありますが、それと同時に犯罪者であっても普通の青年の部分もあるということを描きたかったような気がします。
入念な取材を元に描かれるリーガルサスペンス！テレビドラマ『罪人の嘘』(2014年)
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テレビドラマ『罪人の嘘』は、2014年、WOWOWのドラマWで放送されたオリジナルの法廷サスペンスです。脚本を映画『ヘルタースケルター』などの金子ありさが担当し、取材に3年を費やした意欲作。瀬々監督は、本作で初の連続ドラマの演出を務めました。
例え被告人が罪を犯していたとしても、あらゆる手段で無罪を勝ち取る悪名高い弁護士・笠原卓也と、彼とは相反して庶民派の弁護士・楠之瀬正志。徐々に意識し始める二人。躍進し続ける笠原には、過去に隠された秘密がありました。
笠原には映画『悪の教典』でも悪役をこなした伊藤英明が、楠之瀬は名バイプレーヤーの遠藤賢一がそれぞれ演じています。その他、木村佳乃、仲代達矢、筒井道隆、中村蒼、松重豊など豪華キャストが集結。
瀬々監督はドラマの製作発表で次のようにコメントしています。「人が人を裁くこと、司法制度、国家が人を裁くこと、そのことへの疑問。そして、それを自らの問題として抱え原罪を背負った弁護士を主人公とした物語。やりたいと思った。ずっと気になっていたテーマだった」と。人が人を裁いた先には何があるのか。そんなことを私たちに問うているドラマです。
未解決事件ドラマの決定版！「コールドケース～真実の扉～」シリーズ(2016年～2017年)
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「コールドケース～真実の扉～」シリーズは、WOWOW開局25周年記念企画として、2003年～2010年までアメリカ・CBSにて放送されていた同名ドラマをリメイク。2016年にシリーズ１が、2017年にシリーズ2が製作されました。
“コールドケース”とは未解決凶悪犯罪のこと。日本でも2010年に殺人の時効が撤廃されました。
舞台を日本の神奈川に移し、主人公の刑事とそのチームが未解決事件に挑んでいくというストーリーです。主演は、本作が初主演となる吉田羊、チームのメンバーに永山絢斗、滝藤賢一、光石研という個性派俳優が集まりました。さらにボス役を三浦友和が演じています。
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瀬々監督は今回、脚本として参加しています。シリーズ１の全10話のうち5話を、シリーズ２では全10話のうち１話を担当しました。
脚本を担当するにあたり、こんなコメントを出しています。「人は忘れられない何かを持っているというテーマを大切にしたい。さらには、事件が少なからず時代の空気と関係があったという視点をどこに当てるのか。戦後の光と闇、高度経済成長期の悲劇、移民問題、震災、格差社会などの主題とドラマを結びつけた」と。
人間の本質を鋭くえぐり出すと同時に、その時代の持つ問題意識を見事に合わせ持ち、世界に誇れるドラマが誕生しました。
犯罪被害者の葛藤を描く『悪党～加害者追跡調査～』(2019年）
『悪党～加害者追跡調査～』は、ベストセラー作家・薬丸岳の小説「悪党」が原作のテレビドラマです。2019年、WOWOWのドラマWにて放送されました。
幼い頃、姉を殺された過去を持つ、元警察官で探偵事務所の調査員・佐伯修一。依頼された仕事をこなしながら、姉を死に追いやった少年たちを探しています。
罪を償った加害者たちの現状を知ったとき、被害者家族は彼らをどうするのか、犯罪のその後を描いた作品です。主人公・佐伯を東出昌大が演じています。瀬々監督とは映画『菊とギロチン』でもタッグを組みました。
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また、佐伯と同じ探偵事務所の所長である小暮正人を松重豊、情報源となるキャバ嬢のはるかを新川優愛が演じています。
瀬々敬久は、本作と同じ原作者・薬丸岳の「友罪」で加害者からの贖罪や葛藤を描きました。本作は、まさにその真逆、被害者遺族の立場で描かれています。
彼らは加害者たちに何を思うのか、果たして赦すことができるのだろうか…そんな究極のテーマを我々に突き付けるのがこのドラマです。
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映画『楽園』に込めた思い
今回、紹介してきた作品は共通して「罪と人」を描いています。ある事件により人生が大きく変わってしまった人々が、その罪とどう向き合っていくのか。加害者であろうが、被害者であろうが……。
ある町のY字路で起きたふたつの事件、容疑者の青年、トラウマを抱える少女、追い込まれる男。これらがひとつに繋がったとき、果たして真実とは……。 事件にまつわる人々が、どのような結末を迎えるのか気になりますね。
そして、なぜ『楽園』というタイトルにしたのか。これまで作り続けた作品の中にそのヒントがあるのか。答えはぜひ、劇場で確かめてみてください。
(2019年10月現在の情報です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。)
