ついにこの時がやって来た!
Netflix、Amazonプライム・ビデオにて配信開始した大傑作「勝手にふるえてろ」。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
本コラムはその面白さを徹底解説すると共に、本作の主演を務める女優、松岡茉優が如何に素晴らしい女優であるかを語っていきたいと思います!
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映画「勝手にふるえてろ」公式サイト
「勝手にふるえてろ」ってどんな映画なの?
まずは今回ご紹介する作品「勝手にふるえてろ」ついて簡単な概要をご紹介いたします。
江藤良香24歳。男性経験ナシ、片思い歴10年。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
主人公、江藤良香(松岡茉優)はこじらせ女子。
24年の人生でただの一度も交際の経験がない彼女は、中学時代の同級生”イチ”への片思いを10年経った今でも継続中。
その思い人でさえ、友人であった訳でも、自分からアプローチをした訳でもない体たらく。たった数回交わした会話の記憶を脳内で反芻し続けている始末である。
そんな、妄想と思い出だけが癒しの日々を送る良香だったが、ある日、会社の同僚の”ニ”(数字の2の書き方が独特である事から)に突如として告白される。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
人生って急!驚きを隠せない良香。”告白された”その出来事自体には隠しきれない喜びを感じるのだが、10年来の妄想彼氏であるイチの存在と、現実の男であるニとの間で気持ちが揺れ動くのだった。
理想だが成就しない”妄想”の恋愛か、妥協だがチャンスのある”現実”の恋愛か・・・。
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自意識の暴走が止まらない!おかしすぎる妄想を楽しもう!
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
良香は極度の妄想家。感情が上下する度に、まるで世界全体が彼女を讃えたり、蔑んだりしているかのようなシーンが登場します。
そのコメディ的なやり取りのおかしさも本作の面白さの一つ。それを支えているのが女優、松岡茉優のコメディエンヌとしての圧倒的才覚です。
いい意味で恥のない、”本気のおどけ芝居”を表情、声色、仕草の一つ一つにまでこだわり抜いて演出しています。
不快な時の低い声、嬉しい時の高い声。眉根を寄せた怒りの表情、思わず綻んでしまったかのような自然な笑顔。
体全体で感情を表現する良香のキュートさは松岡茉優でしか成し得なかった奇跡の産物と言えるでしょう。
「桐島、部活やめるってよ」で演じた意地の悪い女子高生。
「ちはやふる」で演じたミステリアスな”圧倒的強キャラ”かるたクイーンなど、彼女が今までのキャリアで見せて来た多彩な役作りが、万華鏡のようにコロコロと表情を変える良香を演じる上で完璧にマッチしています。
可愛らしさと憎たらしさが繊細なバランスで同居する女、江藤良香を演じられるのは松岡茉優以外にはありえない。
「こういう子いる!」、「私が映ってた!」など、本作の劇場公開時に寄せられた口コミの多くが、良香の圧倒的な”実在感”に驚いたという内容でした。
妄想がそのまま映像に反映される為、時としてファンタジーにも近いシーンすら登場する本作。にも関わらず、良香には確かな実在感がある。松岡茉優の演技力の高さが暗に伺えてしまいますね。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
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人はなぜこじらせるのか?愛と自己肯定を巡る悲しい現実。
先述したようなあらすじと解説を読むと、「なんだ、よくあるカップル向けの恋愛映画か」
そんな風に思われる方もいるかもしれません。ですが、ハッキリと言えます。それは大きな間違いです。
本作は全編通してコメディ的な明るいタッチで描かれているので一見すると中身の薄いものと考えがちですが、実は人間という生き物の根深い心の闇を描いた作品でもあるのです。
こじらせ女子、こじらせ男子。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
言葉にしてしまうとどうにも陳腐なイメージを抱いてしまいますが、こじらせるという事の裏には、孤独や他者への強い恐怖が隠されています。
人間の人格や自意識の在り方は、それまでの人生に裏打ちされたものです。どんな境遇で、どんな経験をしてきたかが、その人の思考、行動をも左右するのです。
では、他人の悪意に敏感だったり、自分の体面が気になったりするこじらせ系人格はどうやって形成されるのか。簡単な事です。
他人の悪意によって深く傷付いた経験や、自分の在り方を他人に強く否定された経験がそうした人格を作るのです。
作中では、良香がどうしてこじらせてしまったのかは明らかにされません。
ですが、「私もどちらかというと滅ぼされる側の人間」、「私ごときがおこがましい」などの作中のセリフを見る限り、彼女が自分の価値を故意に低く見積もっている事は確かなのです。
中学時代の思い人イチに対しても、直接的なアプローチを何もせず、外側から眺めているだけだったのは、彼女の中で「自分なんかが思いを伝えたとしても、きっと相手にはされないだろう」という諦めがあるのですね。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
勿論、自分からそうした心理を認める事はありませんが、心理学的にはこうした思考は回避的な性質として捉えられます。
自分が傷つく事、他人に心を開く事を恐れるあまり、消極的な姿勢で居続けてしまう。
本作を見ていただければ分かる事ですが、もし彼女が中学時代に勇気を持ってアプローチ出来ていたのなら、片思いが実った可能性は大いにあったのです。
愛されたり、褒められたりという経験が不足し、他人から心ない態度を受けると、人は他人との交流を回避するようになります。
運良く良い出会いが振ってくれば、そこから抜け出せる事はあるでしょう。だけど、もし誰にも見向きもされず、こじらせたまま歳を重ねていったらどうなってしまうのでしょうか?
他人に心を開けないまま、自分を守る事だけが得意になる。そうなってしまうと、他人から向けられる感情や善意を受け止められなくなって行きます。
バカにされても傷付かないように自分で自分をバカにし続けると、他人の誉め言葉を疑ってしまう。
自分を陥れようとする悪意に騙されないようにしようと意固地になると、他人の善意すら屈折した悪意だと捉えてしまう。
自己防衛の為の索敵も過剰になれば先制攻撃に向かってしまうように、いつしか、自分の為に被害感情で他人を傷付ける怪物になってしまうのです。
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不本意な禁欲主義者
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
これは現実に起きた出来事の話ですが、北米圏では現在、”インセル”と呼ばれる集団によるテロ行為が問題になっています。
インセルとは、involuntary celibate(不本意な禁欲主義者)という造語を略したものです。
彼らの多くは、未婚の男性向けに作られた婚活支援サイトに集った独身男性達。
北米では、いい大人になっても彼女が居ない、結婚していない男は一人前ではないという、お一人様蔑視の価値観が根強く、そんな社会の中で彼らの多くは不遇を囲っていたのです。
インセルの要求は、大きく分けて二つ。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
「未婚男性への差別の撤廃」
「自由恋愛の平等性の確保」が挙げられます。
ただでさえ愛されない孤独に苛まれている彼らは、社会から白い目で見られるだけでなく、孤独である事が余計に愛から遠のいてしまう悪循環を行政や社会が改善するべきだと主張しているのです。
その思想の為に女性を暴行、殺害する事件も起きています。
彼らの主張には、幾分かの理がある事も事実ですが、肥大した自意識や孤独が凶行に走らせている事は否定できません。
日本でも、無差別な殺人や暴力のニュースを耳にする事が多いと思いますが、犯人達の環境や境遇に目を向けてみると多くの事件が孤独や社会との隔絶が原因となっています。
人に愛されている、認められている。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
そんな安心感が彼らにとって唯一の特効薬になる訳ですが、自意識が過剰に働いている人というのは無意識に自分本位になってしまうもの。
そうなると愛してくれる人は中々現れません。そして、愛されないことでより自意識の壁が高く固くなっていく。悪循環なのです。
「勝手にふるえてろ」では、良香にはニという、自分を認めて欲してくれる人が現れた事でようやく止まっていた時間が動き出します。
ニに告白をされた事で自分に自信が付く。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
→自信が付いた事で未精算のまま放置していた恋に向き合う勇気(告白以外にもある事件が大きく作用しますが・・・)が持てる。
といった具合に、積み重なった問題が少しずつ解決していくのです。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
もし、良香の人生にニが現れなかったとしたら?もし、良香が変われないまま人生を歩んだとしたら?
そんな想像をしてみると、本作が決して単純なラブ・ストーリーではない事がわかって頂けるのではと思います。
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(2019年7月現在の情報です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。)