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【連作コラム第4回】~野木亜紀子論「獣になれない私たち」編~

連作コラム「野木亜紀子論」今回はその最終回です。

テーマとなる作品は現行の野木作品の最新作であるドラマ「獣になれない私たち」。

「空飛ぶ広報室」、「掟上今日子の備忘録」、「逃げるは恥だが役に立つ」などですっかり野木作品の顔となった人気女優、新垣結衣を再び主演に迎えたオリジナル作品ですが、この作品で野木脚本はまた新たな進化を遂げました。

果たしてそれは一体、どんな進化なのか解説していきたいと思います。

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どうして素直に生きられないんだろう?「獣になれない私たち」あらすじをご紹介!

まずは今回のテーマとなる「獣になれない私たち」を簡単にご紹介致します。

獣になれない私たち出典:https://www.amazon.co.jp/

不器用な大人達が織りなすラブコメディ!

主人公、深海晶(新垣結衣)はIT企業で営業アシスタントとして働く30歳。

交際四年になる彼氏を持ち、正社員として日々バリバリ仕事をこなす彼女であったが、その実態は”営業アシスタント”とは名ばかりの何でも屋。

社長の秘書から新人の教育まで、なまじ仕事が出来てしまう為に強引で横柄な社長のゴリ押しに抗えず、仕事に心を擦り減らす毎日。

彼氏は元カノとの腐れ縁を断ち切れない”いいカッコしい”のダメ男。交際四年にもなり、アパートの更新日が迫る中、いつまでも切り出されない結婚の二文字に晶は業を煮やしていた。

そんな中、晶の行きつけのバー「5tap」では、高らかに結婚を宣言した女性、橘呉羽(菊池凛子)と、その彼氏、根元恒星(松田龍平)の奇妙なやり取りが繰り広げられていた。

突如、恋人が宣言した身に覚えのない結婚の二文字に動揺する恒星に呉羽が告げたのは、別の男性との電撃結婚の報告なのであった・・・。

素直になれず、欲望を押し隠し、本能を押さえつける日々を送る”私たち”と、欲望にしたがって行動し他者を振り回す”獣たち”。

交わることのない筈の両者が出会った時、互いの運命の糸は絡まり、複雑に交差し始める・・・。

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言葉に出来ないもどかしさ。より繊細になる野木亜紀子の作家性

獣になれない私たち出典:https://www.amazon.co.jp/

本作は野木亜紀子の脚本にしては珍しく、少し難しいドラマです。

決して難解という訳ではないのですが、分かりやすいストーリーの方向性がある訳ではなく、一見すると、何を描いているお話なのか見失ってしまう事があります。

色んなモチーフが散りばめられ、立場もバラバラな登場人物達が、それぞれ別の悩みを抱えて日々を奮闘する様が描かれるドラマなのですが、その全てに共通するのは、”ややこしくなってしまった”という後悔の気持ちです。

好き同士で付き合っていた筈なのに、いつの間にか向いている方向が変わってしまい、それでもなし崩しに関係を続けた結果、何処に向かうべきなのかわからなくなってしまったカップル。

初めこそ、望んでいた仕事が出来ていた筈なのに、いつの間にかしたくも無い事、出来る訳でも無い事をしなくてはならなくなった会社員。

再起するまでは、そう思って支えていた筈なのに、いつの間にか甘えだけを許してしまうようになった元彼氏。

兄を救いたい、そう思って一度だけ手を染めただけだったのに、いつの間にか抜け出せない不正の深みにハマってしまった会計士。

自分の気持ちに素直でいたい、そう思って生きていた筈なのに、いつの間にか周囲の視線に縛られてしまったモデル。

全員が全員、他者とは異なるもどかしさを抱えていて、そこからどうすれば抜け出せるのか答えを探しています。

時には思い切った行動に出て失敗したり、消極的な態度が事態をよりややこしくしてしまったり。

一人一人の気持ちが人間としてリアルに描かれる野木脚本だからこそ、こうした言語化し辛い抽象的な物事をドラマとして見せる事が出来る。

今まで彼女が手掛けてきた作品の中でも、一際、繊細で淡い情感を残す物語。それが「獣になれない私たち」なのです。

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野木亜紀子の辿り着いた新境地。「ソフトストーリー」の担い手へ。

皆さんは脚本業界で用いられる作品の方向性を表す言葉、「ハイコンセプト」と「ソフトストーリー」をご存知でしょうか。

ハイコンセプトとは、ストーリーの主軸が分かりやすく、娯楽性のキモも明快な作品。いわゆるジャンル映画などに用いられる用語です。

今まで野木亜紀子の手掛けてきたドラマの多くは、この「ハイコンセプト」にあたるものが多かったと、筆者は感じています。

「重版出来!」や「空飛ぶ広報室」は一話完結型で、登場人物達にに毎話降りかかる難題の数々をどう乗り越えて行くのかを描いた”お仕事”の物珍しさをコンセプトにしたドラマ。

重版出来!【TBSオンデマンド】【連載コラム第1回】~野木亜紀子論「重版出来!」編~

「逃げるは恥だが役に立つ」ははっきりとラブコメである事が分かりますね。第一話から最終話までの間に、みくりと平匡の関係性がどう進展して行くのかをコンセプトにしたラブストーリー。

逃げるは恥だが役に立つ【連載コラム第2回】~野木亜紀子論「逃げるは恥だが役に立つ」編~

「アンナチュラル」もわかりやすいですね。一話完結型のミステリーで、運び込まれたご遺体という謎の象徴を通して、次第に事件の真実へと迫っていくドラマです。

アンナチュラル ドラマ【連作コラム第3回】~野木亜紀子論「アンナチュラル」編~

しかし、本作「獣になれない私たち」は今までの野木作品とは違い、分かりやすく明快なジャンル分けは難しい作品のように思えます。

ラブストーリーと取ることも可能ですが、それにしては主役二人の恋模様以外の要素が多すぎるきらいがありますし、その他の要素に関してもジャンル分けが不可能なものが多いです。

「ソフトストーリー」の脚本は、ジャンルを背骨にしないかわりに、一つの感情や、感覚を背骨に構成されるのが一般的です。

「獣になれない私たち」その複雑で、掴み所のない物語の中心には「素直になりたい」「解放されたい」などの、人間が抱く本質的な自由への欲求が宿っています。

野木作品の今までを追ってみても、生き辛さや、足を引っ張る不自由な現実は共通して用いられてきたモチーフでしたが、ここにきて、そのモチーフはドラマに厚みを持たせる為の装飾ではなく、物語の本質に据えられているのです。

この淡いドラマの雰囲気に、私はある脚本家の面影を感じました。

坂元裕二です。

坂元裕二 脚本家出典:https://www.oricon.co.jp

「東京ラブストーリー」でデビューし、一度はテレビ業界から姿を消すも、復帰後は独特の雰囲気と唯一無二の作家性を発揮するようになった男。

詳しくは以前、こちらで掲載させて頂きました記事、「Paravi(パラビ)で見放題配信中!今だからこそ、TBSドラマ【カルテット】を語ろう。」を参照して頂ければと思いますが、野木亜紀子の近年のオリジナル作品ラッシュと、繊細さを深めていくストーリーテリングの変遷にはTVドラマファンとして、どうしたって彼の過去を彷彿とせずにはいられない。

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彼もまた、デビュー当時こそ「トレンディドラマ」という明確なジャンルの中に、自身の独特な感性や視点を織り交ぜて完成度の高い脚本を作り上げていましたが、その坂元ならではの作家性が人々の心を捉えた後に、「mother」や「woman」、「カルテット」などの傑作が生み出されました。

彼にとって、キャリアを築いた「トレンディドラマ」の時代は、繭の中で翅を育んだ蛹の時代でもあったのです。

もし、今までの野木亜紀子が、以前の坂元のように蛹の時代であったのなら、これから先の近い将来、彼女はどんな傑作を世に送り出すのか。

そんな妄想を胸に抱きながら、本コラム「野木亜紀子論」をここに終えたいと思います。

今回、ご紹介したドラマ「獣になれない私たち」は動画配信サービス「Hulu」にて配信中!

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(2019年7月現在の情報です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。)